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​第一話

​雑誌おばあちゃん

僕が満員電車で見かけた人の中で、一番記憶に残っているのが雑誌おばあちゃんです。

駅のホームで電車を待っていると、僕のうしろに一人のおばあさんがやってきました。そのおばあさんは分厚い雑誌の本の途中の漫画のページを開いて、その雑誌を顔の前で広げている。コロナウイルスが流行しているご時世なので、マスク代わりに口を隠しているのかと思った。

「ピロリーンピロリーン まもなく電車が参ります。」

僕やおばあさんを含めた大勢の人が電車に乗った。

携帯電話でゲームをする人、新聞を読む人、イヤホンで歌を聴く人などがいる中、そのおばあさんだけはなんにもしないで、雑誌を顔に当てたまま突っ立っていた。三駅ほど通り越した後、おばあさんは突然雑誌の本をとなりにいたサラリーマンに見せだした。何をしているんだろうなぁと思いながら見ていると、そのサラリーマンだけでなく学生やおじいさんなどいろんな人に雑誌を見せだした。やがて僕にも見せてきた。そうしているうちに、そのおばあさんと目が合ってしまった。

「この本の作家さんはねぇ、ライトノベルが面白いんだよ、私ライトノベルが好き」

急におばあさんがこんなことを話しかけてきた。

「はぁ、そうですか」

​僕は適当に返事をかえすと、仲のいい知り合いにでも手を振るように僕に手を振って電車を降りていった。

変わった人だなぁとは思ったが、「ライトノベルが好き」と言いながらもライトノベルではなく漫画の雑誌を見せてくるところがわけわからなくて面白かった。

​<終>

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